4月5日にナフサがなくなるという危惧は、嬉しいことに杞憂に終わった。しかし、筆者としては非常に気になるニュースが入ってきた。それは、大手住宅設備メーカーのTOTOが新規のユニットバスの受注を停止し、LIXILもその可能性に言及し始めているという点である。(https://news.yahoo.co.jp/articles/e60efc2393bd795a91b7e9eeac9a3402c0c9b192)
政府発表では「在庫は足りている」「供給の目詰まりが原因」と述べられているが、現場では確実に「モノがない」という悲鳴が上がっている。この認識の齟齬はどこから来ているのか。筆者が調べた範囲で、その具体的な正体をお伝えしたい。
第1章:数字の城が隠す「情報の目詰まり」
なぜ「在庫はある」のに「製品が消える」のか。そこには、統計上の数字では見えない三つの構造的バグが潜んでいる。
① 「原油の備蓄」は「製品の在庫」ではない 政府が根拠とする「4ヶ月分」の在庫。その多くは精製前の「原油」である。しかし、現場が必要としているのは樹脂や添加剤へと加工された「末端の製品」です。原油からナフサを抽出し、プラスチックに変えるには数週間のリードタイムが必要である。私たちは今、「小麦(原油)はあるのに、パン(樹脂)が焼けない」という奇妙な飢餓状態にある。
② 統計に現れない「精製優先順位」 現在、国内の製油所では電力や物流を維持するための燃料(ガソリン・軽油)確保が最優先されている。実は石油を精製する過程で、ナフサの生産比率が意図的に削られ、燃料用に回されているというデータがある。(https://www.paj.gr.jp/statis/1359)政府は「油の総量」を語るが、「プラスチックを作るための成分」が戦略的に後回しにされている事実は、統計の行間に隠されたままだ。
③ 「1%の欠落」が100%を止める TOTOの受注停止の直接の原因は、巨大な浴槽の材料不足ではなく、パネルを貼るための「接着剤」や「コーティング剤」といった微量な添加剤の不足だと言われている。現代の精密なモノづくりにおいては、全体の1%に満たない特定の溶剤が欠けるだけで、100%の製品が出荷不能になる。マクロな政府統計が見落としているこの「ミクロな1%の死滅」こそが、産業を止めている真犯人なのだ。
第2章:個人ができる「フェーズ2:生活防衛プロトコル」
供給網の目詰まりが現実である以上、私たちは自身の生活OSを「有事仕様」にアップデートする必要がある。
- 「買い替え」から「メンテナンスによる延命」へ プラスチック製品(水回り、家電、車のパーツ)の天敵は紫外線と熱である。こまめな清掃や保護剤でのメンテナンスを徹底し、「今あるものを壊さない」ことが最大の防衛策になる。
- 素材の「リテラシー・アップデート」 新しく物を購入する際、あえてナフサ危機の影響を受けにくい素材(木、金属、ガラス、陶器)を選択する。私たちの選択が、市場のナフサ需要をわずかに減らし、その分を医療現場へと譲る「間接的な隣人愛」へと繋がる。
- 情報の「ダウンストリーム・ウォッチ(下流監視)」 ニュースの見出しではなく、完成品メーカーの「納入遅延のお知らせ」をチェックしていただきたい。それが3ヶ月後の未来を映す鏡だからだ。
【結びに:連帯という名の防護柵】
政府発表はあくまでマクロ、総量としての話までしか述べられていない。個別具体の製品レベルは民間の範囲であり、政府にはそこまで把握するリソースがないかと思われる。だからこそ「足りている」という発表と、「足りない」という現場の声が同時に上がっているだろう。
我々は一人では無力かもしれない。しかし、協力することで大きな、そして確実な危機への対策になるはずである。この非常時、犯人探しをして誰かを糾弾するのではなく、個人にできることを淡々と実行する。それこそが、34万5,000人の命を守り、この困難な季節を乗り越えるための唯一の道であると、筆者は信じている。
兼良筆